老い独り居
序文より
鋭く、温かなまなざし(朝日カルチャーセンター千葉 太田 博)
エッセイの教室で、初めて齋藤さんの原稿を拝見した時、正直、戸惑ってしまいました。
まず、独特の文体にびっくりしました。体言止めや旧字体の乱発、そして、「て・に・を・は」や句読点の使い方などなど、我々が通常使用している言語感覚とは程遠いところにある文章だったからです。
教室で私が、口癖のように言っている「読者を意識した文章」などという〝サービス精神〟にも無縁な、独自の世界に浸っている――ように、見えました。
が、まもなく、それが見当違いであることに気付きます。齋藤作品を数重ねて読み続けるうち、独特の文体に、昔どこかで出会ったことのあるような、不思議な懐かしさと温かみを感じたのです。
「樋口一葉」でした。一葉の名作を支えている文体になぜか趣が似ている。そう思った時、齋藤作品は、私の頭の中に快く入り込んでくることとなったのです。
「角を矯めて牛を殺す」という言葉がとっさに浮かんできました。下手に添削したり、手直しなどしようものなら本来の繊細で味わい深いニュアンスが薄れてしまうに違いない、と考えたからです。
齋藤作品の最大の魅力は、旺盛な好奇心と行動力から生まれてくる興味津々のテーマです。
それらが鋭い観察、自己分析、人間に対する温かなまなざしによって支えられています。文章のあちこちや無言の行間に散りばめられている思いやりの気持にそれが読み取れます。それは、ご自身がお描きになった挿絵にも表れています。
齋藤作品に登場する人間群は、どの人をとっても魅力的です。
ナイーブな感性と鋭い観察眼から紡ぎ出される豊富な言葉で、彼(女)らは文章の中で心地よく踊らされているようです。
齋藤さんが、喜寿の記念としてこれまで書き溜めておいた作品を纏めて出版したい、というお話しを伺って、これはすばらしい一冊になる、と感じました。
一編ずつ読んだ時に気になっていた飛躍感が、纏めることで霧散する、互いに補い合って魅力が倍増されてゆく、と察したからです。
案の定、魅力的な一冊が出来上がりました。
あとがきより抜粋
『楽しんで、作りましょう!』
『楽しんじゃいましょうよ!』
再来年、喜寿になる。主人公になるのは苦手だから、いっそ、自分で自身を祝ってしまおう。エッセイ教室、四年の間に溜まりし綴りを、纏めて本に。立派な言い訳の“時”に恵まれ、なんと運のいい。エッセイ教室の先輩、とはいえ、若い人たちの、すでに本を上梓されているに、誘発されてである。
講師、太田先生にお願いし、同時に教室の仲間たちにも告白。すると、ご両者からすぐ、筆頭の言葉を、かけられた。趣味の世界の本作りなのだから、それに、すぐ低周波病になる、私を見抜いての、率直なご意見も含めてであろう。『楽しみましょう! 本創り』ついでに『楽しみましょう! 残された日々の生活』大書し、家の数ヶ所に掲げた。
何事もしかりですねぇ。実に、一歩、一段の歩みでのみ、進む。本作りとは、この老いの身の経験を以ってしても、初心者。関わる方々に、手間隙おかけするの連続であった。
太田先生に回を重ねるご指導いただき。溝江先生信用のご紹介、北方新社を。教室では多くの仲間から、友情と老いへのいたわりの後押しを。とりわけ仲村さんに、我が耳に代わる筆談のボランティアをたくさん。
創り生みだす新しい感覚、はずむ喜び、でも同じ嵩の影、空しいや、ストレスにも襲われましたけれど、ほら眼の前に、『楽しみましょう!』の掲示が。関わる人々からたくさんのことを、いただいて、一年と半とし、この本ができた。嬉しい。有難うございます × みなさま。
太田先生から「あとがき」をいただけた。目で追うと、はぁー、わたしってこういう無知やら欠点なのね、今更の自覚を、言葉という形で認識することができて。すぐに、面映いお褒めの言葉。褒められることに慣れぬ私は、一瞬、肩や腹が小刻みに震え、急には止められなかった。ええい! 喜寿だ。身に過ぐるお褒めの言葉。照れずにしっかり、有難く戴いてしまおう。そして、せめてと、感謝の念もて、序文の座にお坐りいただくことにした。
喜寿の祝い上がりて候。 二○○七年 七月 七十六歳。
目次より
「エッセイを書く」講座を見学したい……そして/いつもアメリカ映画と共に/孫 二題/二〇〇一年 年賀状/恋しきは/言い難き嘆きもて―言葉に出合う/(再び)言い難き嘆きもて/私は エッチばあちゃん/次男のこと(一)/次男のこと(二)/次男のこと(三)/お喋り/新年を迎える 長男の若水/住所録/敬称/新緑の美術館へ/旅へ/猛暑が続く/満月をめで/溝江先生との惜別/難聴/父の背(一)/父の背(二)栗の絵/礼状、血液型B型 級友へ/子供の目/太田先生作品 読後/なんとゆう字/三言少ない/耳に残るは(一)/耳に残るは(二)/私の手/祖母と孫/外孫/幾つになろうとも/「ごちそうさま」/褒美 750円×2/すっころんじゃったの/素描『美しい娘たち』/失う/たどり つき/窓を通りすぎる風/どうしたら/桃太郎/友の家で/紙ふぶきを浴びた、姉/飾り窓/愛って/功罪半ばなる FAX/裁縫箱/干からびた ノート





