地域学 第六巻

序より(弘前学院理事長 阿保 邦弘)

標語を「地域の理解にむけて」と揚げて刊行を続け、本書で六巻になる。巻を重ねるたびに論考の主題も質も地域文化の深層にせまって行くように感じる。

津軽神楽における「狂楽舞」の詳細な考証は本書が始めてであろう。笹森建英、畠山 篤両教授と共に、弘前大学の今井民子教授も研究に参加されている。東通村教育長の川畑修二氏による芸能の概説は、本県の神楽を把握するための基本的な資料になろう。山梨大学のグローマー教授は英文で地域の文化を論じている。これによって、本学の学問成果を世界に発信することができる。研究所がこのように広がりを見せているのが嬉しい。

地域の精神史を解明する上で、明治期のキリスト教の実体を知るのは極めて重要である。力が及ばないが、理事長である私も明治期の霊界の大人とよばれた本多庸一について論考を進めつつある。本多の活動と深く関係する共同会、国会開設運動による明治十三・四年の動向は日本の歴史の潮流を決定的に変えたのであった。野口伐名教授による「津軽の国会開設運動」はこの時代に渦巻いた激流を解明しようとするものである。幼児教育史も野口教授は息長く連載されている。

講演会の内容を補って書かれた青森中央短期大学のライダー島崎玲子教授による「看護教育」は、戦後の看護教育の成立過程を知ろうとする者には必読の論述となっている。文学部研究科非常勤講師の黒滝十二郎講師の研究は本書の学術的な高さを更に高めてくれる。現今、方言が見直されているなかで、大分大学の日高貢一郎教授が医療・福祉面での必要性について解りやすく論じている。

鈴木克彦氏による縄文時代の調査・研究は、将来に期待するところ大である。研究所の客員研究員として鈴木氏と早稲田大学の篠田徹氏を擁し得たのも幸いである。

目次より

  • 序 弘前学院理事長・・・阿保邦弘
  • 東通村の民俗芸能・・・川畑修二
  • 狂楽舞・解読『舞方物認』・・・笹森建英、畠山篤、今井民子   
  • 津軽神楽《兼平》《猶生》《狐》の演劇的主題・・・今井民子
  • 津軽神楽〈蕨折〉の復原と文学的評価・・・畠山篤
  • 弘前藩「改正文化律」の施行をめぐって・・・黒瀧十二郎
  • 縄文琴事始・・・鈴木克彦
  • 看護・福祉と「方言」の役割・・・日高貢一郎
  • 津軽の国会開設運動 ―知られざる指導者笹森要蔵の生涯とその行動―・・・野口伐名
  • 神の愛による青森県初めての幼稚園(六)―明治三十八年の私立弘前幼稚園の保育―・・・野口伐名
  • 日本における看護の専門職化への道 ―占領軍による医療と看護改革―・・・ライダー 島崎玲子
  • 編集後記・・・藤岡真之
  • Visual Disability, Religious Practices, and the Performing Arts during the Edo Period in Northern Japan・・・Gerald Groemer

編集後記より抜粋(弘前学院大学地域総合文化研究所主事 藤岡真之)

『地域学六巻』がまとまりました。『地域学』は弘前学院大学地域総合文化研究所が行った事業の年間記録です。本誌は各年度ごとの講演会・研究発表をもとに編集を行っています。

二〇〇七(平成一九)年度に本研究所が開催した講演会・ワークショップ・演奏会は以下のとおりでした。

七月二十一日(土)
講演会 ライダー島崎玲子(青森中央短期大学教授)
「看護の専門職化と占領軍による医療と看護改革」
十月二十日(土)
ワークショップ 「祇園精舎」
橋本敏江(前田流平家琵琶)・鈴木孝庸(新潟大学教授)
講演会 「語り物としての平家物語」鈴木孝庸
演奏会 「祇園精舎」「経正 都落ち」「青山の沙汰」「秘曲」「リチェルカーレ」
橋本敏江・鈴木孝庸・竹佐古真希(弘前学院大学オルガニスト)
*本企画は、弘前学院大学出身者教職員の会との共催で行われました。
十一月十日(土)
講演会 ジェラルド・グローマー(山梨大学教授)
「瞽女・座頭 江戸時代の視覚障害者が歩んだ自立への道―芸能活動を中心として」
一月十二日(土)
講演会 日高貢一郎(大分大学教授)
「看護・福祉と『方言』の役割」

本巻はこれらの講演会をもとにした三つの論考に併せて、七点の投稿を収録しました。

  • 「東通村の民俗芸能」・・・川畑修二(東通村教育委員会委員長)

    長年にわたる東通村の能舞と神楽についての調査をもとに、東通村の民俗芸能の概説が述べられています。

  • 「狂楽舞・解読『舞方物認』」・・・笹森建英(弘前学院大学教授)、畠山篤(弘前学院大学教授)、今井民子(弘前大学教授)

    津軽神楽の中の狂楽舞についての考察です。「舞方物認」の解読を行っています。

  • 「津軽神楽《兼平》《猶生》《狐》の演劇的主題」・・・今井民子

    狂楽舞の兼平、猶生、狐の詞章の分析を行っています。

  • 「津軽神楽〈蕨折〉の復原と文学的評価」・・・畠山篤

    狂楽舞のわらび折の詞章の分析を行っています。

  • 「弘前藩『改正文化律』の施行をめぐって」・・・黒瀧十二郎(弘前学院大学非常勤講師)

    弘前藩の刑法「文化律」の施行について、当時の藩政との関係から論じています。

  • 「縄文琴事始」・・・鈴木克彦(考古学者)

    縄文時代の琴(コト)についての研究です。

  • 「看護・福祉と『方言』の役割」・・・日高貢一郎

    共通語がよそ行きの服だとすれば、方言は普段着のようなものだということです。方言は人々の思いが率直に表現されるからです。方言のもつ特質と、医療・福祉の現場で方言を理解することの重要性が述べられています。

  • 「津軽の国会開設運動――知られざる指導者笹森要蔵の生涯とその行動――」・・・野口伐名(弘前学院大学教授)

    明治十三年の全国的な国会開設運動に関わり、津軽地方の運動の議長を務めた笹森要蔵の紹介、考察を行っています。

  • 「神の愛による青森県初めての幼稚園(六)―明治三十八年の私立弘前幼稚園の保育―」・・・野口伐名

    創刊号以来継続している論考です。本学の幼稚園であった聖愛幼稚園の前身においてどのような教育が行われていたかということを、具体的な遊具、音楽を通して幼児教育の実態を明らかにしています。

  • 「日本における看護の専門職化への道―占領軍による医療と看護改革 弘前学院大学地域文化研究所 第一回公開講座報告書」・・・ライダー島崎玲子

    戦後の民主化の流れの中で、アメリカをモデルとした看護の専門職化が女性の権利の拡大を伴いながらどのような道筋を辿ったかということが論じられています。

  • 「Visual Disability, Religious Practices, and the Performing Arts during the Edo Period in Northern Japan」・・・ジェラルド・グローマー

    講演の内容に基づいていますが、イタコについての考察が中心になっています。英語で書かれたイタコに関する文献は非常に少なく、本論考はたいへん貴重な資料です。

『地域学』は講演会等に参加してくださった方々をはじめさまざまな方のご協力の上に成り立っています。多くのご協力に支えられて本巻もなんとか世に送り出すことが出来ました。感謝を申し上げます。今後も引き続き、地域文化に対する理解を深めるための活動を継続していきたいと思います。

北方新社 地域学 六巻
弘前学院大学地域総合文化研究所(編)

地域の理解にむけて刊行を続ける地域学第六巻。 東通村の民俗芸能/津軽神楽/縄文琴事始/看護・福祉と方言の役割/津軽の国会開設運動/日本における看護の専門職化への道 等12篇
2,100円(税込)

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