あとがき

 農業総合研究所(現農林水産政策研究所)での28年間の勤務から転職し、弘前大学に異動して14年が経過した。2009年2月6日には、最終講義を終えた。
 弘前大学では、農業経営管理学、農業政策論、経済と産業の歴史、環境と資源等の講義を担当した。その他、青森県農業大学校、青森県営農者第学校、北里大学農獣医学部で非常勤講師として農業経営学、畜産経営学、国際農産物貿易等の講義を行ってきた。
  本書は、弘前大学の最終講義で触れた内容と講義で残された課題、触れられなかった課題を述べたものである。私にとってのいわば卒業論文のような書である。
 
  その発端は、12年前、旧相馬村紙漉沢(現在弘前市)のリンゴ農家の募集に応じてリンゴの木のオーナーになったことに始まる。
  リンゴについては、冬期の雪上での剪定から始まり、気象や病害虫の影響を受けやすい開花期の授粉、花摘みなどの諸作業、数回の実すぐり(摘果)から防除、着色管理、収穫、箱詰めまでリンゴ農家のお世話になり、時には、妻美子が作業の手伝いをさせていただいた。
  そして9月から翌年の5月にかけて毎日滋味あふれる色とりどりの各種のリンゴを、育てる苦労に思いを馳せ、感謝の気持ちを込めて口にすることが出来た。
  こうしたリンゴ農家の苦労と並々ならぬ努力、研究心に間近に接しながら、昨年末、『リンゴ農家の経営危機とリンゴ火傷病の検疫問題』(弘前大学出版会、2007年12月)を出版した。
  本書は、それを基礎にして稲作を加え、「青森農業の危機-WTO体制下の稲作・リンゴ経営破綻」(『弘前大学農学生命科学部学術報告 第11号』、2008年12月)としてとりまとめた論文に、さらにまた、以前、大学の学術報告に発表した論考(5章)と科学研究費成果報告書に発表した論考(4章)を加え、最新の農業経営調査結果等を追加して(3章)まとめた書である。
 
  農業経営の危機は貿易自由化との関連で発生しており、その根源には1995(平成7)年に成立したWTO(世界貿易機関)体制の存在とそれがもたらす構造的問題を認識する人は多くないと思える。そのことに強い危機感とおそれを感じ、あえて、本書をまとめた次第である。
  それゆえ、単なる経営問題としてではなく、国際的視野の下で、極めて不十分ではあるが、WTO体制下の構造的問題として迫ろうとした次第である。
 
  本書の序章及び終章でも触れたが、深刻化する食糧問題を考える際のキーワードである「食糧主権」は、今や世界の世論となりつつある。世界各国の農民団体、消費者団体と研究者の地道な運動が日の目を見ようとしている。安全な食料の安定的な確保にとっても解決すべき重要な課題であり、生産者と消費者が目覚め、立ち上がるべき時だと考えている。
  そのことに本書が役立てば幸いである。
 
  最後に、調査、資料の提供に御協力いただいた農家の方々、相馬村農協、青森県りんご協会、津軽農民組合、青森県地域県民局普及指導センターの方々、青森県庁の関係者の方々、東北農政局青森農政事務所・統計協会にお礼を申し上げたい。
  初めて足を踏み入れた弘前の地で14年間、私の教育・研究に御協力、御支援をいただいた弘前大学と弘前市民の皆様にも厚くお礼を申し上げたい。
  また、年度末の出版に格段の御協力いただいた北方新社の二部洋子氏にも感謝します。

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